老婦人のミステリー

横浜から羽田に向かう京急線でのお話

座るやいなや隣のおばちゃんが話しかけてきました
「旅?」
「これから帰るとこなんです」
「どっから来たの?」
「北海道です」
「ほぉ!あたしは北海道と京都が好きでね。ていうのは食べ物がおいしいでしょ。あたしは岩手だから北海道とくらべりゃ何にもないって言ったら、そりゃそうさってかえされっちゃってさ。何度も行ったことあるんだよ。あたしは子供がいないからね、こんなんして自由に。ほら、これなんて35歳の時に買ったのまだ着てね」
(ワインレッド色のコート)
「かわいいですね」
「こんなんして本読んで(ここで小声で耳打ち)、ていうのはボケ防止、もう80になるからさ」
「お元気そうで何よりです」
「でも子供ん時にゃ結核して、おばちゃんがせっせと食べ物運んでくれて、食べて寝ときゃ治るからって、そんで本当に治っちゃったの。ありゃ贅沢病。贅沢なもの食べさせてもらえるから。でもうちは農家で米でも大根でも豆でもあってね、学校で同級生に弁当が賑やかね~なんて言われてなんのことかわからなかったけど、他の人のお弁当見たらおかずなんてほとんどないのね、ああうちは恵まれてるなって思ったよ(ここで小声で耳打ち)、ほら小作人さんがいたから、お米は作ってもらえるものと思ってたからね」
「その本は何を読んでいたんですか?」
(遠藤周作の「イエスの生涯」)
「古い本。何度も読み返してるの。いいよ遠藤周作は」

うららかに陽のさす車内
乗客から無言の注目を浴びる会話
節子さんというこのおばあさんのざっくり史、わたしがシングル子なし母は72歳ということ諸々、車内の見ず知らずの他人にさらされていく可笑しさ

「あら、蒲田まで来ちゃった! 鶴見で降りなきゃなんなかったのに、そんじゃね、気を付けてね、節子ばあちゃんが言ってたよ~てさ、言ってやんな!」(誰に? 何を? 何のタイミングで?^^)

降りたホームから車内のわたしへブンブン手を振ってくれる
ああ、短時間でのこの距離のつめかた、満面の笑みでブンブンバイバイ、子供と一緒だ
左隣に座っていたおじさんも思わず吹き出して言った
「楽しいですね^^」

岩手出身鶴見在住旦那さんあり子供なし80歳の節子おばあちゃんとの会話
老人の肌はきれいだ
凝視していました

でもー
節子おばあちゃんは気づいていなかったでしょう
実はわたしの注意は終始向かい側の席の老婦人にも注がれていたことを
帽子を被ってきれいな手袋をしてロングブーツをはいた英国婦人のようないでたち
そんな夫人が無我夢中でスマホを使いパシャーッパシャーッ、写真を撮りまくっている
わたしの背後の窓の外に絶景が?
この寒空に?
それにしてもどんだけ撮る?!
いつまで撮る?!!
もう完全にこっちを撮ってる!
もうズームで撮りたくてなかば乗り出してる!

謎すぎる (ー_ー;)

節子さんが降りて以降、英国風婦人の激写はやんだ
何の趣味?こわっ!
結局老婦人は終点羽田空港で降りた
小さなポシェットひとつで空港へ?何者?

老婦人はホームでもエスカレーターでも何だかキョロキョロ
わたしは目をふせて密かに後を追った

そしてミステリーは改札を出たところで起きた

老婦人が男の人に話しかけている
あ、、、あれは、、、左隣に座っていた「楽しいですね」のおじさん
驚・愕!
夫婦なん?!
あなたの奥さんの素行、どういう気持ちで眺めていたの?!

な、謎すぎる(◎_◎;)

世の中には可笑しなことが転がっている
関西もそうだけど東京関東もいろんなひとが集まっているからぎょうさん転がっています

わたしとおばあさんが電車の中で談笑する写真がSNSにあがっていたらご連絡ください