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赤毛のアン

最終更新: 2019年1月29日

大学の英作文の授業で

「赤毛のアンは小説ではない」

と言ったイギリス人女性の先生の言葉がトラウマ的にわたしを悲しませ続けた


高校時分、受験勉強の合間をぬって愉しみに読んだ全9巻

それから一度だって読み返すことがなかった

が、最近清野さんも赤毛のアンが愛読書であったとお聞きし、ふと手にとった


先生、この物語はものすごくおもしろいです


アンのとてつもないマシンガントーク

マシュウ小父さんとマリラの中に抗しがたく芽生えていく甘い愛情

アンの放つ生命力にアボンリーの人々の人生も輝きだす


大学2年生の夏、1ヶ月間だけプリンス・エドワード島に短期留学した

東京から飛行機で移動している間にホストファミリーの不正が見つかり、急遽学校スタッフが親戚のひとりに頼み込んだらしい

76歳の元小学校教諭、一人暮らしのジョアンおばあちゃんがわたしのホストとなった


色とりどりのルーピンでいっぱいの庭

手作りのキルトがかけられた清潔で寝心地のよいベッド

レシピも見ず朝スコーンを焼いてくれたり

憧れのレモンメレンゲパイを作ってくれたり

おばあちゃんと二人っきりの生活は赤毛のアンに描かれる日常を彷彿とさせた


ある日ふたりで映画館にいった夜、上映時間までの数分間をポップコーンを食べながら過ごしている時、ふいにおばあちゃんが一人暮らしの寂しさを語り感傷的になった

長年連れ添ったおじいちゃんは脳溢血で倒れて以来数年前から施設暮らし

3人の子供たちは近くに住んではいるが、おばあちゃんの毎日は質素な食事と夜のクイズ番組をひとりで楽しむことの繰り返しだった


帰国の日、空港まで送ってくれたおばあちゃんはそそくさとハグしただけでろくすっぽお別れの言葉も交わさぬまま立ち去ってしまった

一度も振り返ることなく空港の扉を出て行ってしまったおばあちゃん

涙を隠していたんだと、若いわたしにも想像がついた


さて、帰国後先の英作文の授業でのこと

私はカナダ人おばあちゃんに思いがけず訪れた日本人の女の子との二人っきりの暮らしを課題のエッセイに書いた

「よく書けていた」

そのイギリス人女性の一時は邪悪にも思えた先生からもらえた唯一のA評価だった


遠い遠いプリンス・エドワード・アイランド

おじいちゃんが亡くなったという知らせを最後に手紙に返事はこなくなってしまった

おばあちゃんはもうこの世を去っているに違いない

遠い遠いP・E・I

またあの美しい赤土の島を訪れられるだろうか










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